バイクレースをする上で、避けて通れないのがレース資金の問題。
バイクの車体やパーツを購入するために数十万から数百万円の資金が必要になるのはもちろん、ガソリンやサーキットの走行料など、頑張って手に入れたバイクを走らせるだけでも、たくさんのお金がかかります。
ヘルメットやレーシングスーツの購入も合わせると「1年間生活できるのでは?」と思うような金額になるでしょう。
もうこれは道具を使うスポーツである以上、避けては通れない問題でもあります。
しかも、性能やパーツが優れている方が良い結果を出すことができる近道であることも確かなところ。
本気でレースをする人にとってお金の問題は、常に頭を悩ませ、選手を引退にも追い込む存在にもなるのです。
この金銭問題を少しでも解消するのが”スポンサー“の存在。
スポンサーは選手を金銭面でサポートする代わりに、活動や認知を広めてもらうという対価を手に入れる存在です。
しかし世の中では、スポンサーと聞くと、金銭面でレース活動を支えてくれる者としての認知が広く行き渡っているからか、「お金をくれる人」と捉えられているようにも思います。
筆者は企業で働きながらではありましたが、10年近くバイクのレース活動に取り組んでいました。
大きなチームではなく、活動規模自体はコンパクトでしたが、鈴鹿4時間耐久ロードレースのクラス優勝や、全日本選手権(2年間)にフル参戦することができました。
その背景には、金銭的なサポートや物品サポート、そして無償で手伝ってくれる人の存在があります。
たくさんのサポートがあったおかげで10年近くレースを続けられましたので、感謝してもしきれません。
しかし反対に、支えであるはずの存在が大きな重圧として感じ、レースを楽しむことができなくなったこともあります。
一生懸命レースをする人にとってスポンサーは欠かすことができない存在であるのは間違いありません。スポンサーとの良好な関係が築ければ、自身の大きな力になります。
しかし、スポンサーに対して間違った解釈をすることで、スポンサー活動を行うのに気が引けてしまったり、反対に安易にスポンサー活動を始めて失敗する人が出てきたりしています。
そこで本記事では、スポンサー活動が本来と趣旨が違った方向にズレてしまわないよう、
- すでにバイクでレースをしている人
- これからバイクレースを始めようと思っている人
に対し、
- スポンサーとはどういう存在なのか
- スポンサーを付けるメリット・デメリットについて
- スポンサーを獲得する方法
- スポンサーと良好な関係を築いていくための方法
などをご紹介していきます。
これを読んだからと言って必ずスポンサーが手に入るという訳ではありません。
バイクレースに一生懸命取り組んでいる、取り組みたい人に、スポンサーの存在について一緒に考えていただければと願い、書かせていただきました。
そもそも”スポンサー”とはどういうものなのか
そもそもスポンサーとはどういう意味なのでしょうか。
冒頭でもご紹介したように、スポンサーとは、資金面で援助をしてくれる人や企業のことを指すのでしょうか。
もちろん間違ってはいませんが、必ずしもそれだけではないような気がします。
スポンサーの言葉の意味を調べてみると、次の通りとなります。
団体、個人、スポーツのチーム、イベント、施設、番組などに対し、広告やPRを目的に金銭を支出する団体あるいは個人、すなわち広告主である。
Wikipedia
スポンサーは広告やPRを目的に金銭を支出する団体あるいは個人とあります。すなわち「お金を出すからそこでうちの商品や名前を宣伝してね」ということになります。
この記事を読んでいる人はわかっているかもしれませんが、レーシングカーやバイクにデカデカと企業の広告が入っているのを目にすることがあると思います。
これは、スポンサーがレース費用を提供している代わりに、車体に企業の製品や名前付け、レースを見にきた人にPRをしているのです。
車体を良く見てみるとステッカーの大きさも貼り付け位置もバラバラなのにも気が付くのではないでしょうか。
これは、お気に入りの企業を大きく目立つところに貼り付けようという考えではなく、支援してくれる金額が大きければ大きいほど、目立つところに貼り付けると決められているのです。
そう考えると、スポンサー活動は広告事業の商売として捉えられます。
定義に当てはめたスポンサー側のメリット
スポンサーが、
- 広告宣伝目的
- CSR(社会貢献目的)
として選手に資金を提供するのであれば、スポンサー側のメリットは具体的に次のようになると考えられます。
- 商品やサービスの売り上げ向上
- 知名度向上
- 好感度向上
バイクに載っている商品やサービス、企業の名前を目にした人がその商品を購入すれば、売り上げに繋がります。
また、レースを見に来た人がその企業の名前を知ることで、企業に対して興味が湧くこともありますので、知名度が向上します。
さらに、スポンサー側は「この会社はモータースポーツ活動や参戦している人をサポートしています」ということが一般に知れ渡ることで、その企業の好感度も向上させることもできるでしょう。
しかし時代が進むにつれ、上記3つのメリットだけでなく、
- ④一緒に戦っている感覚になれる
- ⑤純粋なサポートとして
の色が強くなるようになってきました。
さて、売り上げや知名度、好感度向上はわかりますが、「一緒に戦っている感覚になれる」「純粋なサポートとして」は、一体どういう意味なのでしょうか。
スポンサーとアスリートはWin-Winの関係でなければならない?
バイクの広告を掲載することで、どれだけ①〜③の効果を見込めるのか。おそらくほとんどの場合、利益はあまり出ないでしょう。
特に日本では、今でこそ再び250ccバイクの人気と共に若者のバイク人気が高まってきましたが、「バイクブーム」と呼ばれていた1980年代には遠く及びません。
ましてやバイクに乗っているからと言って必ずしもレースを観るとは限りません。MOTOGPなど世界選手権クラスの規模になると、世界中の人に観られるため大きな経済効果があるかもしれませんが、そもそも日本では地上波のテレビ中継すらされません。
レース観戦の母数自体が少ないため、利益を重視するのであれば、わざわざ広告費を投入する必要はないようにも思えます。
そう考えると、もちろん全てのスポンサーがそうとは言い切れませんが、そもそもスポンサーは経済的な費用対効果を求めてサポートをしているのではなく、そのライダーやチームを応援したいから金銭面という形で協力していると考えられるのです。
こうなると、前項でご紹介したスポンサーの定義に当てはめると、両者がWin-Winでなければならないとも言えますが、必ずしも経済的な効果だけがメリットとは言い切れないのです。
レースでは”四役一体”の考えの方がいい
もちろんバイクに乗ってレースを戦う人は一人ですが、レースはライダーだけではなく、メカニックやヘルパー、そしてスポンサーから成り立つ集団が行っているのです。
ライダーだから必ずしも偉いというわけではなく、全ての役割の人がフラットな関係であると考えられます。
ライダーはあくまで現場の最前線で戦う役割を担っているため、どうしても目立ちがちです。
しかし、そのライダーが安心して乗ることができるバイクを作っているのがメカニックであり、ライダーが走ることに集中する環境を作ってくれているのがヘルパーなのです。
そしてレース活動自体できるように支えてくれているのがスポンサーの存在です。
良く考えると「レースをできるようにしてくれているスポンサーが一番偉いのでは?」と解釈することもできます。現にそう考える人も少なくありません。
しかし、これは大きな間違いです。
考えてみてください。走るライダーがいなければそもそもレースでバイクを走らせる人がいません。バイクを作るメカニックがいなければバイクが走りません。
ライダーやメカニックが現場で仕事ができるのはヘルパーが身の回りのことをしてくれるからです。どれか一つでも欠けると良い成績など出せないのです。
スポンサーがバイクを宣伝で使うとなれば、ライダー、メカニック、ヘルパーが活躍できる環境を作る必要があるのです。全ての関係は横であるべきと言えるでしょう。
少し話が逸れてしまいましたが、四役一体の考えであれば、一緒に戦っている感覚にもなりやすいですし、この考えを持つことで、純粋にライダーやチームをサポートするという形にできるのです。
スポンサーが付くことでレーサーが受けるメリット
次に、レーサー側が受けるメリットについても見ていきましょう。
- 性能が良いバイクや部品などが手に入る
- 練習環境を向上させられる
- レースに時間を費やせる
- メンタルも強くなる
①性能が良いバイクや部品などが手に入る
スポンサーが付くことで受けられる経済的なメリットがあると、性能が良いバイクやパーツなどを手に入れられるようになります。
モデルチェンジによって毎回アップデートされるバイクは、新しい方が戦闘力が高いのは間違いありません。
しかし資金がなければ、当然ながら転倒や経年劣化によってボロボロになったバイクやパーツをいつまでも使い続けなければいけません。
しかし性能的に劣るものを使い続けることでライディングに無理が生じ、転倒につながることもあります。また、変な癖がついてしまうことも考えられます。
もちろん何でもかんでも新品にしたり最高級のものにするとなると、いくらスポンサーがついてくれるからと言っても限度もあるでしょう。
クラッチレバーなどは純正の方が握り心地が良かったりしますので、自分に必要だと思うものや、どうしても必要なものを厳選して資金を投入する必要があるということは忘れないでおきたいところです。
②練習環境を向上させられる
バイクレースはガソリンや走行料など、バイクを走らせるだけでもお金がかかりまので、資金がなければ練習もままなりません。
練習用のバイクも必要です。そのため、当然ながらレース資金が増えれば練習環境を向上させることができるでしょう。
③レースに時間を費やせる
個人でバイクレースに力を入れている人は、レース資金を賄うために、昼夜問わず働いている人も多いのではないでしょうか。
レース資金があれば、その分バイクレース以外のことをしなくても済むため、バイクレースに時間を費やせます。その結果、充実したトレーニングをすることができるでしょう。
④メンタル面も強くなる
ライダーは良好な関係のスポンサーが付くことで、「自分はスポンサーに応援してもらっている」という心の支えになることもあります。
コース上では常に孤独で結果を追い求めなければいけないライダーにとって、誰かがついてくれていることはメンタル面でも大きなメリットになるのです。
また、応援してくれている人がいると認識することで、良い意味で自分にプレッシャーをかけることもできます。
スポンサーが付くことのデメリット
反対にスポンサーが付くことのデメリットについても考えてみましょう。
- プレッシャーに押しつぶされる
- 結果が出なければお金の無駄使いになることもある
お金をもらっている以上結果を残さなければいけないというプレッシャーは常に付き纏います。
人によってはレースをしていない時も結果を追い求めることが頭から離れないという人もいるのではないでしょうか。スポンサーや周りの人から圧を与えられることもあるでしょう。
プレッシャーを力に変えられる人なら問題ありませんが、全員がそうとも言い切れないのではないでしょうか。
また、転倒ばかりで結果を残せないでいると、スポンサーがいくら純粋に応援しているからと言っても、大赤字になっているということには変わりません。
これらのデメリットの大きさは人によって大きく異なりますが、スポンサーが付くことにより、責任とプレッシャーが常に背後にあるということを忘れてはいけません。
バイクレース界における主要スポンサー(世界選手権クラス)
世界選手権クラスともなると、世界を股にかける企業がスポンサーになっています。
サテライトチームでも年間の参戦費は10億円と言われているMOTOGPでは、次のような企業が主要スポンサーになっています。
- レプソル
- モビスター
- モンスターエナジー
- エクスター
- レッドブル
- 出光
- プラマック
- ペトロナス
- エスポンソマラ
エナジードリンク系のメーカーやオイル系のメーカーが主要スポンサーとなっていることが多いようです。
余談ですが、海外でエナジードリンクは、日本のように耐え忍ぶための目的で飲むリポビタンD的ではなく、「栄養ドリンク飲んでオールで楽しもうよ!」という、「楽しむためにエネルギーをチャージする」という意味合いがあるようです。
日本国内よりエナジードリンク市場はかなり盛んな様子。だからメインスポンサーとして名乗りをあげることができているのではないでしょうか。
国内レースのスポンサー事情
世界選手権クラスになると明確に広告として機能するものの、国内ではそうは言い切れません。ただでさえ下火のバイク市場である日本国内では、どのようになっているのでしょうか。
ビッグスポンサーともなれば、チーム名のどこかにスポンサーの名前が入るものの、国内レースの最高峰クラスであるJSB1000のエントリーリストを見てみると、チーム名にそれらしき面影があるところは少ないとも捉えられます。
もちろん、ただ単にチーム名に載せていないだけで、しっかりスポンサーがサポートしてくれているところもたくさんあります。
また、もう少し規模が小さいレーシングチームはどのようにしているのかについてもご紹介しておきます。
8耐に出場したチームのマネージャーでした。マシンにステッカーを貼るのでお金くださいというのは無理があります。サーキットを走るバイクは広告として小さいですので、Webサイトを持っていたりキャンギャルを呼んだりして華があるチームを作らないといけないと思います。
そもそもレースを知らない人を差サーキットに呼ぶこと自体不可能に近いのでまずは人を集められる環境を作らなければいけない。意図的にライダーを人気ものにしたり、新聞やテレビ局に売り込んだり。人が人を呼び込むので知名度をあげる努力も必要。
レースが持つ広告としての効果は、街のお祭りと同じですよね。田舎のお祭りレベルになると認知度が少ないものの、日本〇大祭りとなるとかなり人が集まってきますので、大きな宣伝効果を生むことができるのではないでしょうか。個人的に活動している人が多いので、それを束ねて大きな組織にしていけると良いですよね。
“スポンサー”とまではいかないものの”サポート”を受けるという選択もある
スポンサーと聞くとお金をもらうイメージであるため、スポンサーを受ける側もする側もハードルが高いと感じてしまうこともあると思います。
そのため、スポンサーではなく、サポートという形で受ける選択もあるということもお伝えしてきます。
無論、言葉上の違いだけであるとも考えられますが、サポートとは、お金ではなく物品を提供してもらうという解釈もできます。
例えば、オイルの卸売り業者からレースで使用するオイルのレビューをフィードバックするという条件で無償で提供してもらったり、年間でタイヤを一定本数購入するからその分サポート価格で販売してもらったりする方法があります。
こちらの方がより商売的な交渉となりますが、お互いの利益がはっきり見えているため、より実現しやすいとも考えられます。
また、まれに有名な企業でオフィシャル的にサポートをしているということもあります。RSタイチのサポートプログラムは有名で、筆者も特にお世話になりました。
※2021年度はサポートをしているという情報はありませんでした
スポンサーを獲得する方法
スポンサーを獲得する方法についても見ていきましょう。
まずは直接連絡するという直球勝負もありますが、これはあまりおすすめしません。よっぽどレースに興味がある企業や人でなければ、まず相手にされることはないでしょう。
もちろん手当たり次第に連絡しまくって見つける方法もありますが、よっぽどガッツがなければなかなかできませんよね。
そのため、身近な人からスポンサーを獲得する作戦の方が良いとも考えられます。身内や友達からサポートを受けるというのもありですが、親密な人からお金を提供してもらうようにお願いすることに気が引ける人もいるでしょう。
そこでおすすめなのが、サーキットにいる人にスポンサーやサポートをしてもらう作戦。
サーキットにはお金を持っている人がたくさんいます。そもそもレース自体がお金に余裕がある人が楽しむスポーツでもありますので。
また、バイクのショップやパーツの販売店で働く人がいることもあります。そのような人と仲良くなれば、パーツを安く売ってくれるかもしれませんし、無償で提供してくれるかもしれません。
ただし、だからと言って媚を売れば良いというわけではありません。
それだと長続きしませんし、レース活動自体やりにくくなります。人によってはそれくらいしないと速くなれないと本気で言う人がいます。もちろん否定はしませんが、それだけではないはずです。
それ以外にも、クラウドファンディング型の方法でスポンサーを集めるという方法もあります。スポンサーというより、カンパを募るの方が合ってるかもしれません。
クラウドファンディングを使って大々的に募集するのも良いですし、大きくPRするのが苦手な人ならSNSを上手く使ってバイク好きなどに「500円でバイクにあなたのお名前を貼って走ります」とアプローチするのも良いでしょう。
やり方はいろいろありますので、自分がやりやすい方法を探すようにしましょう。
スポンサーと良好な関係を築いていくために
さて、嬉しいことにスポンサーができたとしましょう。しかしここからが本当のスタートです。スポンサーとの良好な関係作りをしていかなければいけません。
スポンサーとの良好か関係を築いていくためには、誠実に対応するのが一番です。
レース後の報告をするのはもちろんですが、こまめな近況報告を怠らないようにするのも大事。興味を持たれなくなったら最後。要はスポンサーが一緒にレースに参加しているという感覚になってくれるようにする必要があるのです。
また、レース結果の報告などはただ起こったことを書き連ねるのではなく、そこでどのように考えて取り組んだのか、何を得たのかなど、パーソナルなことも盛り込んで報告できると、より親密な関係作りに近付けるかもしれません。
スポンサーを付けるか付けないかはあなた次第
ここまで、スポンサーについて詳しくご紹介していきましたが、今回ご紹介したように、一長一短がありますので、どちらが良いとは言い切れないのです。
たくさんお金が必要だ思うのであれば、ガンガンスポンサーを付ける活動をするのも良いですし、反対に自力でレースをしていきたいと考えているのであればスポンサーを付けないのも一つの方法です。
スポンサーを付けるか付けないかはあなた次第。少しでも自分がレースに全力を注げる環境に近づけられることを願っています。