バイクを減速させるための重要な機構であるフロントブレーキ。
バイクの基本的な動き「走る」「止まる」「曲がる」の中で最も大事で難しい部分を担っています。
しかしフロントブレーキは指先の微妙な力加減によって効き具合が大きく変わることに加え、コントロールはライダーの技量に委ねられている部分でもあります。
そこで本記事では、バイクのフロントブレーキの役割や構造、ブレーキのかけ方といった内容をご紹介していきます。
フロントブレーキはバイクの3つの減速方法の中でも一番役割が大きい!
フロントブレーキについてご紹介する前に、バイクはどのように減速するのかについて考えてみましょう。
主なブレーキ機構は、
の3つとなります。
もちろんそれ以外にも、転がり抵抗や空気抵抗などもありますが、意図的に減速させるために備え付けられた機構と言われると、やはり上記の3つに絞られます。それぞれのと特徴を見ていきましょう。
フロントブレーキ
フロントタイヤの回転を止めて減速させる機構で、強力な制動力があります。バイクのメインブレーキとして使われることも多く、指一本で十分な制動力が得られます。
基本的には車体が重く、スピードが高くなれば、より大きなブレーキが必要となるため、見た目もイカツイ大きなブレーキが装着されます。
ブレーキの素材はステンレス製や鉄製であることが多くなっていますが、ロードレースのMOTO-GPでは、高温になっても強力な制動力が得られるカーボンブレーキが採用されてています。
リアブレーキ
フロントブレーキと比べて制動力が弱いものの、バイクを安定させたり微妙なスピードコントロールに使ったします。
フロントブレーキで止まりきらない時に使ったり、フロントブレーキを握る前にリアを沈める意味合いで使用したりと、補助的な使い方で使われることが多いため、「サブブレーキ」とも呼ばれています。
- リアブレーキについてはこちらの記事でも詳しく解説しています↓
エンジンブレーキ
エンジンブレーキは、アクセルを戻した時にエンジンに送られる空気が遮断され、エンジンの回転が抵抗として作用する力を利用したブレーキです。
エンジンの回転や使用しているギアによってエンジンブレーキの強さが変わります。エンジンブレーキを使うとリアブレーキ同様、車体を安定させることができます。
シフトダウンした際にエンジンブレーキが大きくなるため、フロントやリアブレーキで減速している時の補助的な意味合いで使用されます。
- エンジンブレーキについてはこちらの記事でも詳しくご紹介しています↓
バイクのフロントブレーキの種類
それではフロントブレーキに話を戻していきましょう。
フロントブレーキの種類は、主に2種類に分けることができます。
- ディスクブレーキ
- ドラムブレーキ
バイクを減速させる目的は同じでも、それぞれ構造や特徴が違いますので詳しくご紹介していきますね。
①ディスクブレーキ
現在のほとんどのバイクに採用されているブレーキで、ホイールに取り付けられた円盤をブレーキパッドで挟み込んで車輪を止める構造となっています。
ディスクブレーキは基本的に油圧で作動し、ライダーの力加減によって微妙にコントロールができますので、ほとんどのフロントブレーキに採用されます。
また、ブレーキ機構自体が露出しているため、ブレーキによって摩擦熱が発生しても走行風で冷却することができます。
さらにブレーキディスクやブレーキパッドのカスタムパーツも豊富にあるため、カスタムが楽しめる魅力もあります。
ただしブレーキフルードの交換といったメンテナンスが必要になりますので、若干維持費が高くなります。
②ドラムブレーキ
ドラムブレーキはホイール内部に組み込まれたブレーキのことで、ブレーキロッドによってハブの中にあるブレーキシューが外側に広がって車輪を止めます。
外に押し広げられたブレーキシューは、回転するハブに食い込む方向に作用するため、少しの力でも大きな制動力が得られます。
また、ディスクブレーキよりも一つ一つの部品の構造が単純ですので、軽量化やコスト削減にも貢献できます。
また、古くから使用されているブレーキであるため、レトロ感を醸し出されるのも大きな特徴でもあります。
クラシックバイクや、レトロバイク風にしたい人から非常に高い人気があるのもドラムブレーキの特徴ですね。
ただし、密閉されたハブの中で摩擦熱を発生させるため、ブレーキ自体が非常に高温になりやすく、熱ダレが起こりやすくもなっています。
さらにディスクブレーキと比べてコントロール性が低いため、微妙な力加減が求められるスポーツ走行には向いていないとも言えるでしょう。
バイクのフロントブレーキの構成
バイクのフロントブレーキの構成を見てみましょう。※今回はほとんどのバイクで採用されれいるディスクブレーキで見ていきます
- ブレーキレバー・・・ライダーの指で操作するレバー
- マスターシリンダー・・・ライダーの圧力をブレーキの制動力まで増幅してくれる装置
- ブレーキホース・・・ブレーキフルードの通り道
- キャリパー・・・ブレーキパッドやピストンの本体
- ピストン・・・ブレーキフルードからの力をブレーキパッドに伝える
- ブレーキパッド・・・ブレーキディスクを挟み込んでホイールの回転を止める
- ブレーキディスク・・・ブレーキパッドで挟み込む部品
- フローティングピン・・・ディスクの熱がホイールに伝わるのを防ぐ
このように、たくさんの部品によってバイクが自由に止められるようなブレーキ機構が成り立つのです。
では次に、フロントブレーキをかけた時は、バイクがどのような姿勢になるのかについてご紹介していきます。
フロントブレーキをかけた時のバイクの姿勢
基本的にフロントブレーキをかけるとフロントサスペンションが縮み、バイクは前のめりの姿勢となります。
また、サスペンションの減衰の大きさやブレーキを握り込むスピード・量によって前のめりの量が大きく変わります。
もちろん車体が軽いバイクで急激にブレーキをかけると前転する可能性もありますので、いきなり握り込むのは厳禁です。
バイクのフロントブレーキの役割
フロントブレーキレバーを握るとバイクの速度が落ちるブレーキですが、ブレーキは止まるため以外にもたくさんの役割があります。
ここではフロントブレーキの役割についてご紹介していきます。
- 止まるため
- 曲がるため
- タイヤをグリップさせるため
- バイクの姿勢を調整するため
①止まるため
まずはブレーキの基本ともいえる「止まるため」のブレーキ。
文字通りスピードが出ているバイクのスピードを落として停止させます。止まるためと言っても、信号待ちや目的地に止まるには制動力のコントロールが出来なければいけません。
ブレーキレバーを握れば握るほど強い制動力を発揮するため、より短い距離で泊まりたいと考えるのであればしっかりブレーキレバーを握り込むようにしましょう。
ただし、いきなり強く握り込むとフロントタイヤがロックして転倒する危険もありますので、握り込む力加減は注意しなければいけません。
②曲がるため
バイクが曲がるためにもフロントブレーキは多いに役立ちます。
なぜならフロントブレーキをかけることでフロントフォークが縮まり、キャスター角が立つから。
そうなるとハンドルの舵角がつきやすくなり、クイックにハンドルを切ることができます。
ただしブレーキを離すとフロントフォークは伸びる方向に作用するため、上手く曲がるにはブレーキを緩めるタイミングが非常に重要となります。
③タイヤをグリップさせるため
フロントブレーキをかけることで車体が前に進もうとする慣性を止めることになるため、車体の重さがタイヤに移行します。
そのためタイヤには大きな荷重がかかり、グリップ力を向上させることができます。
タイヤのグリップを大きくするためには、大きな力でタイヤを押し付けてあげる必要があります。
ただし大きな荷重をかけたいからと言って、いきなりブレーキレバーを握りこむと簡単に限界を超えてスリップしてしまうため、あくまで最初はじわっとかけるようにしましょう。
④バイクの姿勢を調整するため
フロントブレーキをかけると車体はフロント下がりの姿勢となります。
また、先ほども紹介しましたが、バイクが曲がりやすい姿勢はフロントフォークが下がっている状態でもあるため、フロントブレーキを使って意図的にこの状態を作り出すことも可能なのです。
簡単に言うと、曲がりやすい姿勢を作るためにブレーキ使うということになりますね。
さらにサーキット走行では複合コーナーなどバンクしているにもかかわらず、意図的にフロントブレーキをかけてフロント下がりの姿勢を作ることもあります。
一旦減速してからコーナー1個目に侵入→コーナー2個目のアプローチのために再びブレーキをかけてフロントサスペンションを縮める
鈴鹿サーキットのスプーンコーナーなどは典型的な例ですね。
フロントブレーキのかけ方と特徴
ではここでフロントブレーキのかけ方について見ていきましょう。
フロントブレーキはブレーキレバーを握れば握るほど効く仕組みですが、握る速さや大きさによって制動力やバイクの動きが異る奥深いものなのです。
- 4本がけ
- 3本がけ
- 2本がけ
- 1本がけ
それぞれのパターンの握り方についてご紹介していきます。
もちろん自分が握りやすい握り方でも構いませんが、ブレーキをかける指によってブレーキ特性が異なるためそれぞれ見ていきましょう。
4本がけ
教習所でも教わるのが4本指を使ってかけるブレーキで、基本的なブレーキのかけ方でもあります。
4本の指を使うことによってブレーキをかけるときにグリップを握ることがなくなるため、アクセルを開けながらブレーキをかけてしまうことを防ぐことができます。
また、大きく握力をかけることができるため、力のない人や女性でもしっかりにブレーキレバーを握り込むことができます。
MOTO-GPを見ていても、たまにフルブレーキ時に4本指を握っている人もいるくらい制動力に優れたブレーキ方法とも言えるでしょう。
3本がけ
人差し指はグリップを握り、外側の3本の指でブレーキレバーを握る方法は、1・2本がけの時よりも大きな制動力をもたらすことができます。
また、慣れてくると微妙な力加減の調整もできるようになるため、しっかり握りたい時とコントロールしたい時とで使い分けることができるでしょう。
さらに人差し指がグリップを握っているため、ブリッピングもしやすいと考えられます。
2本がけ
人差し指と中指、もしくは中指と薬指を使ってブレーキレバーを操作する2本がけは、ハンドルをしっかり握りながらブレーキレバーを握るため、微妙なコントロール操作がしやすい方法です。
また、シフトダウンの時にアクセルを煽るブリッピングもやりやすいメリットもあります。
さらにコーナリング中のアクセル開け始めのタイミングでアクセルの遊びをとって滑らかに加速につなげられるメリットもあります。
ただし小指を主体としてグリップを握ることになるため、指が短い人にとっては不利に感じるかもしれません。
1本がけ
人差し指か中指1本でブレーキレバーを握る1本がけは、他の方法と比べて制動力が落ちるデメリットがあります。
しかし微妙なコントロールのしやすさは抜群ですので、フロントフォークを縮める動作やバイクの姿勢を調整するためなど、急制動を必要としないときに使用されることが多いようです。
元々制動力が大きいブレーキを搭載しているバイクであれば、1本がけでも十分な制動力を発揮できますので、意外とレースシーンで使われることも多いようです。
バイクのフロントブレーキをかけるときに注意すること
フロントブレーキについて構造や握り方などについてご紹介しました。これらを踏まえて、フロントブレーキをかけるときに注意することをまとめると、以下の2点となります。
- ロックしないようにする
- 無意識にブレーキを当てないようにする
ロックしないようにする
フロントブレーキがロックすると、ほとんどの確率で転倒してしまいます。
特にフロントからの転倒は足払いを受けたように「ステーン!」と転倒するため、身体やバイクが大きなダメージを受けてしまいます。
フロントタイヤがロックする主な原因は、
- タイヤが十分にグリップしていない
- 路面が滑りやすい状況だった
などが考えられます。
そのためフロントブレーキを握る時は、
- 路面にタイヤを喰わせる
- ブレーキを制動させる
と、順番を踏むイメージで握ましょう。
最初にフロントブレーキを軽く握り、サスペンションを縮め、フロントタイヤに荷重がかかるようにします。
そしてタイヤに十分な荷重が乗った状態でさらにブレーキレバーを握りこみ、狙ったスピードまで減速させます。
無意識にブレーキを当てないようにする
バイクの免許を取ったばかりで運転に不安がある人は、無意識にブレーキレバーに指を当てていることが多く、走行中もブレーキがかかった状態になることも少なくありません。
そうなるとブレーキパッドがどんどん減っていきますので、安全面でも経済的にも良いとは言えないでしょう。
もちろんとっさの危機回避に備えてブレーキレバーに指を添えておくのは悪いことではありません。
しかし運転に慣れていない時はできるだけブレーキレバーを握り込ま内容に意識するようにしましょう。
バイクのフロントブレーキでありがちなトラブル
ここではフロントブレーキでありがちなトラブルについてご紹介していきます。
ブレーキをかけると「キーッ」と音がする
フロントブレーキをかけると「キーッ」と音がする時は、
- ブレーキパッドが消耗している
- ピストンが作動不良を起こしている
などが考えられます。
まずはブレーキパッドを確認してみて残量を確認してみることから始めてみましょう。
もしブレーキパッドの残量が問題なければ、ブレーキダストの付着によるピストンの作動不良なども考えられますので、ブレーキの清掃やパッドのローテーションなどをしてみるのもいいかもしれません。
また、それでも直らない場合やよくわからない人は無闇に手を出さず修理業者に依頼するようにしましょう。
フロントブレーキが効かない
フロントブレーキが効かない原因は、
- ブレーキパッドの摩耗
- ブレーキフルードの劣化や消耗
- ブレーキホースからのフルード漏れ
など、様々な原因が考えられます。
また、フロントブレーキが効かなければバイクを安全に停止させることができませんので、すぐに運転をやめて、近くの修理業者に持っていくようにしましょう。
最近のバイクはフロントブレーキにABSが付いていることも
最近のバイクのフロントブレーキにはABSと呼ばれる装置が付いています。
これは「アンチロックブレーキシステム」と言い、急ブレーキを欠けた時にフロントタイヤがロックするのを防いでくれる機構となります。
最近の新型バイクの多くは標準装備されるように普及が進んでおり、安全面を考えると今後装着が義務付けられるようになるかもしれません。
まとめ
フロントブレーキの構造や役割、使い方についてご紹介しました。
フロントブレーキの役割についてもう一度まとめると、
- 止まるため
- 曲がるため
- タイヤをグリップさせるため
- バイクの姿勢を調整するため
となります。
ブレーキと言ってもただ単に止まるためのものだけじゃないんですね!
また、静動力重視の4本がけからコントロール重視の1本がけまで様々なブレーキの握り方も存在します。
実はバイクの運転で一番難しいのは「ブレーキング」とも言われているほど奥深いものですので、この機会に自分のフロントブレーキのかけ方についてじっくり考えて見てはいかがでしょう?
- リアブレーキについてはこちらで詳しくご紹介しています
- サーキット走行の始め方や必要なものに関してはこちらで詳しくご紹介しています